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[深読みNEWS]F1存亡の機(中編)
複雑極まる現行のパワーユニット。その将来のあるべき姿はまだ見えてこない (C)DPPI
 未来への展望を持ちえないリーダーは、とかく財政再建論と印象操作に走りがちなもので、それはF1も例外ではない。
 たとえば財政再建策の一つとして、現在、2021年以降のパワーユニットの開発凍結案が協議されている。開発凍結とは開発停止を意味する言葉ではなく、こんにちの技術からあすの技術への移行を意味する言葉だが、では2025年もしくは2026年、どんなエンジンが想定されているかというと、これがぞっとしない。
 パット・シモンズは「サステナビリティストラテジー」(拙稿「[深読みNEWS]シンセティックフューエルはF1を救う[2019年12月4日掲載]」を参照されたい)を念頭に「2ストローク ハイブリッドとシンセティックフューエルとでフォーミュラEよりグリーンなエンジンを目ざしたい」(1月8日に開催されたMIA Energy-Efficient Motorsport Conferenceにおける発言)と提案しているが、シンセティックフューエルの可能性には期待するものの、2ストローク ハイブリッドには首肯しかねる。
 疑問点はおおまかに二つ。
 2ストロークエンジン(※)は理論上、4ストロークエンジンより気筒あたりの出力と燃費にすぐれ、エキゾーストノートも魅力的。
 また、実のところハイブリッドレーシングカーのカーボンエミッションは、バッテリー製造時の環境負荷が大きいエレクトリックレーシングカーの半分でしかない。
 しかし、考えなければならないのは、エレトロモビリティへのパラダイムシフトはもはやあと戻りできないまでに進んでいるという事実だ。いまさらハイブリッドのアドバンテージをアピールしたところで誰がふり向いてくれよう。それができるのなら、もうとっくに1.6リットルV6ハイブリッドターボの非常に高い技術水準がマーケットに伝かられていたのではないか(拙稿「[深読みNEWS]自縄自縛のF1」[2019年7月3日掲載]を参照されたい)。
 シンセティックフューエルも、F1カーや機材を積載して各地のグランプリを行き来する航空機の燃料に用いたほうがロジスティックのローカーボンもしくはネットゼロカーボンに寄与し、世界の耳目を集めるだろう。
 次世代のF1カーは技術水準もさることながら、ロードレリバンスも高いものでなくてはならない(FIAとフォーミュラEとの契約によってF1は2039年まで電動化できない。ジャン・トッドはこの契約内容を後悔しているに違いない)。となれば、選択肢はハイドロジェン ハイブリッド ビークルもしくはFCV(Fuel Cell Vehicle)でなければならないはずだ。オートモーティブマニュファクチャラーの新規参戦がないのも、スポンサーシップが獲得できないのも、道理だ。
 開発凍結協議が遅すぎるのも気にかかる。
 BMWのユルゲン・ガルトナー(VP ハドロジェン、フューエルセル テクノロジー アンド ビークル プロジェクト)によれば、ハイドロジェンカーの価格は早ければ2025年にもコンベンショナルカーのそれと同程度になる(英紙「テレグラフ」紙上での発言)。
 ひるがえってF1では、早晩、内燃機関に液体炭化水素が用いられる時代は終わろうというのに、いまだにICEの開発のみ凍結するのか、ERSシステムの開発も凍結するのか、方向性すら定まっていないありさまなのだ。
 FOGは2025年までにグランプリウィークエンドをサステナブルなものにし、2030年までにF1オペレーションをCO2ニュートラルにする、との目標を掲げているが、「サステナビリティストラテジー」そのものに迅速感がなく、しかもその実現性に疑問符がつけられている。もしカーボンオフセットで帳尻を合わせ、取り組みをマーケティングギミックに終わらせた場合、そもそもF1なんて世の中に必要なのか、という議論が沸騰するに違いない。
 F1は存亡の機にある。
 どこかの国の政治家や官僚、財界人が財政均衡という教義に固執しつつ公債残高をふやし、資本を中国に流出させ、国家を衰退途上に追いやったのに、状況はとてもよく似ている(後編につづく)。

※F1では1963年、1.5リットル ロータービックV12(正確には2気筒エンジンを3基ずつ直列にしたユニットを平行に並べたもの)がロータス23に搭載され非選手権のレースに出走したことがある