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[深読みNEWS]新車分析:類似化するF1カーも一頭地を抜くメルセデス
W11のフロント部分。全体に取り付け位置が持ち上げられたフロントサスペンションアームがよくわかる (C)DPPI
 2020年のテクニカルレギュレーションは2019年のそれと実質的に同じなので、F1カーの類似、言いかえればライバルのいいとこどりが進むものと予想されたが、実際、ハイウィッシュボーン、POUオフセット、ケープウィング、ハイマウス、セントラルウィング、リヤサスペンションのロングプルロッド、リヤウィングのダブルサポートなどはほぼF1カーのスタンダードになったと言える。
 ただし、大勢がメルセデスAMGの2019年型W10の、アウトウォッシングよりもバージボードエリアを流れる空気をととのえることに重きをおいたコンセプトに追随しているのに対し、フェラーリ(とその「Bチーム」であるハース)はエアロダイナミクスのアプローチが若干異なる。
 メルセデスAMGはフロントサスペンションをエアロダイナミック デバイスとして活用するソリューション――ダブルウィッシュボーンで気流を上下に分割し、アッパーアームの上の空間を流れる空気をサイドポッドのクーリングインレットに、ロワアームの下を流れる空気をバージボードエリアに導くアイデア――を深化させ、2020年型W11ではロワアームのとりつけ位置をホイールセンターまで上げてステアリングアームと並列させている。
 ロワアームの同一水平面にはブーメランウィングが存在し、バージボードエリアからサイドポッドの気流を加速させる。ハイウィッシュボーンの手法が用いられたアッパーアームの同一水平面にはハイ マウスの採用によって低位置化されたアンチ・イントルージョン サイドコーンが存在し、クーリングインレットへの気流とディフューザーへの気流を分離させている。
 ノーズは、Y250ボーテックスがコントロールしやすいからだろう、W10より狭小化されている。
 サイドポッドは、クーリングインレットの高位置化に伴い下部が絞り込まれると同時に、おそらくフューエルタンクの形状の変更やラジエター パッケージングの変更により、いっそうの短縮化が進められている。
 リヤエンドは縦にボリュームのあるI字型(Hを横にしたというほうが適当か)に見直され、サンペンションはフロント同様、すべてのアームを高位置化するハイウィッシュボーンの手法が用いられている。コカ・コーラ エリアのチャネルを拡幅し、ディフューザーへの気流を増加させるためである。
 これらのコンセプトはレッドブルの2020年型RB16にも共通している。RB16はハイレーキ コンセプトこそ維持されているものの、2019年型RB15にくらべ、フロントサスペンションのジオメトリーが見直され、ホイールベースが延伸している。ノーズは狭小化されている。サイドポッドはERSシステムとギアボックスのラジエターをパワーユニットの上部に配置するソリューションによって狭小・短縮化。リヤサスペンションにはハイウィッシュボーンのソリューションが用いられ、コカ・コーラ エリアは狭小・背高化されている。
 対してフェラーリは、開発の重きをリヤエンドにおいていると考えられる。
 2020年型SF1000は、フロントエンドは2019年型SF90と大差がない。フロントウィングはアウトウォッシング、ノーズは幅広のプロポシスノーズをキープしている。フロントサスペンションはコンベンショナルに見える。サードエレメントを油圧で制御するシステムの開発は遅れており、投入はヨーロッパラウンドの開幕にずれ込むと伝えられている。
 一方、リヤエンドは、ギアボックスを軽量・短縮化し(米ウェブサイト‘Motorsport.com’イタリア版によれば30ミリ)、ホイールベースを縮め、レーキアングルを足しているらしい。
 リヤサスペンションはハイウィッシュボーンのソリューションを深化させ、コカ・コーラ エリアはサイズ ゼロまで絞り込まれている。これらはリヤエンドを通過する気流を増加させ、SF90の弱点であったコーナーでのダウンフォースの不足と制動時の車体姿勢の不安定さを手当てしようという試みだ。
 また、サイドポッドはラジエターのパッケージングが変更され、よりテーパーがついているが、ライバルのようにパワーユニットの上部にクーリングシステムの多くを配置するソリューションは見送られており、エンジンカバーはリヤウィングの効率を妨げない、ボリュームのない、エレガントなものとなっている。
 つまり、メルセデスAMG、レッドブルとフェラーリとは、ディフューザーの最適化によって空力効率とダウンフォースを両立させるというフィロソフィーは一致しているものの、メルセデスAMG、レッドブルは空力効率に、フェラーリはダウンフォースにそれぞれフォーカスしており、コンセプトが違うわけだ。
 バルセロナ・カタルーニャでは、SF1000は低速ターンでアンダーステアの傾向が残り、SF90の悪癖を完全には払拭できていないことを思わせた。フロントエンドのダフンフォースが不足し、フロントタイヤを作動温度領域にとどめておくことができていないのだ。
 比してメルセデスはDAS(DualAxes Steering /※1)によって、レッドブルはマルチリンク(RB16ではアッパーアームではなくロワアームに採用されている)とシングルアーム(ロワアームを連結させる手法)によって、フロントタイヤのポテンシャルをさらに引き出そうとしている。
 SF1000のロングランのペースは悪くないようだが、プレシーズンテストの結果から判断する限り、フェラーリの開発速度はメルセデスAMGとレッドブルについていけていない。あるいはヨーロッパラウンドではノーズやフロントウィングの修正が見られるかもしれない。
 冒頭に記したとおり、2020年のテクニカルレギュレーションに大きな変更はなく、車の弱点もしっかりと把握しているはずなので三味線の可能性もあるが、2基目のフューエルフローメーターのとりつけが義務づけられたことでマラネロはICEのアドバンテージを失ったとも指摘されている(※2)。
 メルセデスAMGにもプレシーズンテストを通じて5基のパワーユニットがトラブルに見舞われたように信頼性の不安はあるが(トラブルの原因はラジエター パッケージングの変更によってラジエターシステムに逆圧がかかっていることや、レキュペレーターの不具合が指摘されている)、開幕戦オーストリアGPでメルセデスAMGの2019年型W10のクローンカー、レーシングポイントRP20にフェラーリが敗北を喫したり(となれば、SF1000の開発方針がまがっていたことは明確)、昨季のようにヨーロッパラウンドの開幕までにシーズンの趨勢が決した場合、マッティア・ビノットの責任問題に発展するのは避けられず、2020年に見切りをつけ、早々に2021年にリソースを移すこともありうるだろう。(この原稿は令和2年2月末までの情報をもとに作成)

※1:
ドライバーがステアリングをブル/プッシュすることによってトーを変化させるシステム。ステアリングをプッシュするとトーインになる。ロングストレートエンドのブレーキングポイント、アタックラップのスタート、セーフティーカー導入後のリスタートなど、タイヤが冷えているときにトーインにすることでタイヤに熱を入れ、グリップを引き出す。ロングランのタイヤマネジメントにも役立つ。
 同時にキャンバーも調整した場合はライドハイトが変化するので違法だが、トーの調整のみなら合法。パルクフェルメ コンディションを破っているとの指摘もあるが、FIAは従来、レギュレーションのループホールを突いたイノベーションに関しては、開発費用を鑑みて、1年間はその使用を認める方針をとっており、DASについても今季中の使用を容認している。
 2021年のテクニカルレギュレーション10.5.2においては「舵角を与えられたホイールの復元(直線状態に戻す動き)はステアリングホイールの回転によってのみ行われる」と規定されており、来季はシステムの搭載が禁止されると見られる。
 DASは、開発が進めば、タイヤの消耗状態、燃料の搭載量、路面の状態などによってこまかな対応が可能になるが、スモールチームには開発の余力はないと考えられる。

※2:
プレシーズンテスト最終日、FIAは次のようなプレスリリースを発表した。
「FIAは、スクーデリア フェラーリのフォーミュラ1 パワーユニットの作動に関する徹底した技術的検証を実施した結果、分析の終了ならびに同チームとの和解に至った。和解内容は関係二者以外には公表されない。
 FIAとスクーデリア フェラーリは今後のシーズンに向け、すべてのフォーミュラ1 パワーユニットのモニタリングや、その他、フォーミュラ1における規制のあり方を向上させることを目的とした複数の技術的取組みに協力することで合意した。また、カーボンエミッションとサステナブル フューエルに関する調査活動に協力することでも合意した」
 これは、平たく言えば、2019年のフェラーリのパワーユニットのオペレーション(拙稿「フェラーリの『裏切り』ふたたび」参照)は脱法的なものであったけれど、違法と判断した場合、F1のイメージをそこねるおそれがあるので、サステナブル フューエルに関する(数千万ドルの)調査研究費をFIAに拠出させることで手打ちとするということだろう。